日本イエナプラン協会ワークショップレポート

ドイツではじまりオランダでひろがっている学校教育、イエナプラン教育を日本に広げるための活動をしている日本イエナプラン協会が主催するワークショップに行ってきました。リヒテルズ直子さんによるお話やグループワークなど盛りだくさんの内容でした。

参加者のみなさんは、オランダに研修に行かれた方、学校教育の現場に携わっておられる方が多く、講演の内容はもちろんですが、グループワークの際に日本の学校現場ではどうなのか、という投げかけをされる先生がいたり、オランダでは教育への親の参加が半ば義務化しているといった話など参加者の方からいろいろと伺うことができて、とても刺激的な時間でした。ただ、話を聞くだけではなく、自らの頭で考え、それをはじめて出会った人とも共有しながら、よりよいアイデアに結びつけていく。ワークショップの構成からもイエナプラン教育の姿勢を垣間見られた気がしました。

イエナプラン教育は、いまとの密接度が強いというか、さまざまな社会的課題に対して教育がどう関わっていくのかという態度を内包しているように思います。今後、日本でも小学校のみならず幼児教育にも、どんどん取り入れられていくことを願います。

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今回、イエナプラン協会の会報へ掲載するレポートの依頼をいただき担当させていただくことになり、せっかくなのでこどものカタチにもレポート転載します。
3月にはオランダへの研修も企画されているようです。わたしも参加したい!のですが。。行けたらいいなぁ。

※イエナプラン教育基礎知識はこちらが詳しいです。
※レポート中の20の原則はこちらにまとまっています。

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 「保護者の学校参加を促す」をテーマに10月13日に開催されたワークショップは、リヒテルズ直子氏のプレゼンテーションに加え、二名のゲスト、柏市議会議員の山下洋輔氏と埼玉県狭山市の小学校教諭である伊垣尚人氏からのプレゼンテーションと2つのグループワークで構成された。

 まず最初に山下洋輔氏より地方議会議員から教育を変革するための試みとして、教育共創研究所の設立についてお話いただいた。高校教諭であった山下氏は、社会が変化しないと教育現場も変わらないのではという想いを持ち、教育改革を掲げて柏市議会議員に当選。教育委員会と議会が影響を与え合う教育行政の枠組みの中で、全国に35000人ほどいる地方議員の数%でも教育に力を注げば、教育現場に変革が起こるのではと考えている。柏市でのある小学校のケースでは、複式学級化することを機に、学校選択制度を活用し小規模特認校することで、イエナプラン的な教育のあり方を模索したいと考えている。学校をなくすことはコミュニティの存続に関わる大問題であり、小規模の学校でも存続できる仕組みを柏市から全国に提示できればと考えている。

  次にリヒテルズ直子氏のプレゼンテーション。イエナプラン教育での保護者の参加方法について、20の原則の中から4つの原則にそって話をすすめた。原則6『わたしたちはみな、それぞれの人が持っている、かけがえのない価値を尊重しあう社会を創っていかなくてはなりません』、原則8『わたしたちはみな、公正と平和と建設性を高めるという立場から、人と人との間の違いやそれぞれの人が成長したり変化していくことを、受け容れる社会を創っていかなくてはなりません』この2つの原則を教師と保護者の関係に引き寄せると、教師と保護者が互いに未完成の存在であることを認め合い、尊重できる関係をつくることが大切になってくる。日本では、保護者と先生が関わるのは、授業参観の日と家庭訪問。それでは、お互いに関係を築いていくには不十分であり、役割を演じることにとどまってしまう。役割の固定化を防ぐためにも、イエナプラン教育校では学校はいつも開放されており、保護者はいつでも授業に参加することができる。その他にも、子どもの誕生日には、保護者にもサークル対話に参加してもらったり、朝と帰りの短い時間にも保護者と連絡を交わすなど、さまざまな試みが実践されている。

 原則11『学びの場(学校)とは、そこに関わっている人たちすべてにとって、独立した、しかも協働して作る組織です。学びの場(学校)は、社会からの影響も受けますが、それと同時に、社会に対しても影響を与えるものです』学びの場を社会変革の出発点にするための具体的な方法として、学校の中に「喫茶室」を設けて、いろいろなことを気軽に話し合える場を提供したり、教室でパーティを行うことなどが紹介された。

 原則20『学びの場(学校)では、何かを変えたりより良いものにしたりする、というのは常日頃からいつでも続けて行われなければならないことです。そのためには、実際にやってみるということと、それについてよく考えてみることとを、いつも交互に繰り返すという態度を持っていなくてはなりません』この原則からは、現場でまず話をすることからはじめられるのではないかという提案があった。異なる文化的背景を持っていたとしても、尊重しあい、何かを共につくることはできるはず。そうした対話的関係を学校現場でも育むために、教員と保護者がフラットな関係をつくることができるかが大切になる。

 立場を超えて、ひとりの市民として子どもたちの未来を共に考えるための手法として、グループワーク「20年後の未来のシナリオ」を実践した。まず、5分間ひとりで20年後の日本を想像した。そこで自分は何をしているのか、いま小学生の子どもたちがどのような社会で、どんな仕事をし、どんな人間関係を持っているのか。グループ内で個々に考えたことを発表しあった後、次は20年後にこうあってほしいと思う社会と思い描く社会を実現するためにどのようなことができるのかについて、ひとりで考えた後グループで意見交換し、グループごとに発表、全体で共有した。このワークでは、ひとりで考えていると見えない視点がみんなで考えることで見えてきたように思う。リヒテルズ氏からは、こうしたシナリオづくりは何度も同じチームで系統づけて行うことが大切だということと、意見交換の際の、自らの参加の仕方を意識してみることが大切だというアドバイスがあった。

 次に保護者参加の方法の例として「ストーリーバッグプロジェクト」が紹介された。イエナプランでは、4~6歳の子どもたちのために、図書館で本を借りるのと同じように、ストーリーバッグ(一冊の本をもとに、親と先生が協働し、物語をさらに楽しめるようにと考えだされたオブジェやゲームを一つの袋にまとめたもの)を貸し出している。このバッグを作成するプロセスが、教員と保護者が個として知り合う機会をつくることにつながり、それはそのまま学校への敷居を低くすることことにつながる。対立する保護者と教員を同じ方向に向け、遊びながら気楽に楽しむことができる機会として活用されている。

 2つめのグループワークとして、ストーリーバッグをつくる過程をグループで体験した。各グループに絵本が1冊配布され、その絵本をもとに、バッグのデザイン、どんな情報源を集めるか、協働ゲームのアイデア、材料をどのように調達するか、という4つの課題を考えた。このワークでは、架空のものであったとしても、よりよいものにしようと積極的に意見を述べる人、人の話を引き出そうとする人、自ら記録をとろうとする人など、話し合いに参加する個々の態度が意識させられた。人の意見をどのように聴くか、それに対してどのような反応を見せるかなど、ひとりひとりの態度のありようによってグループの雰囲気が左右されていくことを感じた。

  最後に二人目のゲストによるプレゼンテーションが行われた。伊垣尚人氏より、小学校でのイエナプラン教育の実践報告として、大きく3つのことが紹介された。ひとつ目は、サークル対話について。サークル対話に適した環境デザインとして、簡単に片付けることのできる組み立て式の長椅子を考案した。床に直接座るのではなく、椅子にしたことで、途中で誰かが入るときに輪を崩さなければならないといったことや、どこに座るのかといったことに意識を向けなくてよくなった。サークル対話は、教員も生徒も平等になり、自分たちの場を自分たちで話しあうという雰囲気をつくりだしてくれる。小さな声でも話しあえるため、互いに聴きあうという態度が自然と出てくる。生活の声のトーンも落ち着いてきた。輪になったままで、近くの人とシェアする時間をつくることで、共有する態度も身につけることができる。

 二つ目として、個別学習の事例が紹介された。一学期は一時間、二学期は単元ごと、というように、徐々に個別学習の時間を増やしていった。個別学習をすすめる中で、子どもたちが自分たちで学び合う姿が多くみられるようになったこと、わからないことは質問するという態度が身についてきたことなどがあげられた。三つ目は、異学年学習(マルチエイジ)の事例が紹介された。発達差があることで学びがダイナミックになること。子どもは自分ができなかったことがよくわかるので、その子のわからないポイントをつかみ、そのポイントをその子がわかる言葉を選び、伝えることができる。

 伊垣氏のお話の中で印象的だったのは、子どもに任せたほうが自分の責任で動くようになり、それが自信につながっていくということだ。子どもの尊厳を尊重し、子どもを尊敬する態度を持った大人たちによって任せられた子どもたちは、自信を持って行動することができるようになり、その行動はそのまま自己肯定感につながっていく。そして、自己肯定感の強い子どもたちは、周囲に対しても肯定的な態度をとることができるようになるのではないか。

  「保護者の学校参加」という側面からイエナプラン教育に触れたプログラムだったが、その根底には学びの場を社会変革の出発点にするという考え方があり、そのための保護者の学校参加なのだと感じた。子どもは常に親の影響下にあり、親の変化は子どもの変化に直結する。そうした変化の連なりが地域の変化となり、社会の変化となっていく。オランダでの先進的な事例を知っても、家庭や教育をめぐる社会的状況の異なる日本で、実際に取り入れていくのは容易なことではないかもしれない。けれど、どうせなにもできないと一歩踏み出せなくなったときには、課題を解決したいという意思を持ち続けることこそが重要なのだと自らを励ましたい。ちいさな試みと試み、人と人とがつながっていく時、社会は着実に変化を遂げている、そして、そのための現場として教育こそが最も大きなリソースを抱えているのだと信じ続けること。未来と現在を映す「子ども」という存在に関わることに誇りを持つことからはじめたい。