鈴木潤さんインタビュー

#003 鈴木 潤さん

3. 20年後も読みたいかどうか

遠藤:本は、どんな基準で選んでますか?

鈴木:一言でいうのは難しいのだけど、いつも考えるのは、20年後も読みたいかどうかかなぁ。というのは、子どものときに読んで、大人になってからまた読みたいと思う本って、やっぱり限られていると思うから。それは読書量とかではなくて、心に残っているか、残っていないかの問題。やっぱり、つくり手が真剣に子どもに向かって何か伝えたいと思っているかどうかって重要だと思うのね。根底にあるのは、しっかりした物語性とか、絵とか、本のつくりとか、そういう本をお店に置きたいと思ってます。

残念なことだけど、新刊で売りたいと思う本って年に2冊か3冊くらいしか出会えない。年に何千冊と新刊が出版されてるのに、言葉が悪いけど、何のために出版されているのかがわからない本がたくさんあるんです。活字離れが進んでると言うけど、まずは読みたいと思える本をつくって欲しいと思うし、子どもが読みたくなる環境を大人がつくるべきだと思う。

遠藤:大切な絵本を3冊を選ぶとしたら、何を選びますか?

鈴木:難しいなぁ。でも、今日の気分で選ぶとすると、『たのしいふゆごもり』『あなただけのちいさないえ』『わたしのろば ベンジャミン』の3冊。
『たのしいふゆごもり』は、片山令子さん、片山健さんの黄金コンビなんですけどね。もうページから土の匂いとか、秋の風とか感じるんですよね。

遠藤:この絵本はわたしも大好きです。

鈴木:絵の魅力も圧倒的だし、片山令子さんの文章も本当にすばらしくて。
こぐまが、お母さんと冬ごもりの準備にいく。お母さんが一生懸命やっている横で、子どもがお手伝いするって言って、余計な事をよくするでしょ。せっかくたたんだ洗濯物をぐちゃぐちゃにしたり、集めたごみを巻き散らすとか。そういうことをするのは子どもの仕事なのよね。だけどそれを「だめ!」とか「いらんことせんと、あっち行っとって!」とかいうんじゃなくてね。お母さんぐまは、子ぐまにいちいち干渉してなくて、子ぐまはご機嫌でお母さんのまねっこをしている。子どもは子どもの、お母さんはお母さんの仕事をしながら同じ時間を過ごす。すごく自然なことなんだけど、とても難しいことでしょう。それを何度も繰り返して、冬ごもりの準備が整ってごちそう食べて、もう寝る準備しましょうと言って、眠りにつく。親子のやり取りが本当に見事なんですね。

それから、2冊目の『あなただけのちいさないえ』は、「アイデンティティー」や「孤独」などいろいろ考えさせられる絵本。そういうことを子どもの本として、子どもにわかるように語っているんです。この絵本は、小学生でも、中学生でも、高校生でも、お父さんやお母さんでも、みんなが読んでくれたらいいと思います。本当に大人が伝えたい事を絵本として、絵本というものを通して語ることって、すごく大事なことだなぁとこの絵本を読むと改めて思います。
3冊目の『わたしのろば ベンジャミン』は、写真絵本なんですけれど、まずは実際にこの瞬間があったということと、それを写真に残してるというのが、やっぱり奇跡だと思うのね。それが1冊の本に仕立ててあるというのもすごいし、ろばのベンジャミンとふたりっきりで冒険するたくましいこのおちびさんにもひかれます。それに、大人が干渉していないところもすごいと思う。子どもを未熟なものとか、大人が手を添えてやらなければ何もできない人って認識してたらできないことだよね。こういう時間を経て、ひとりで考えたり、不安になったり、怖い思いをしたりしながら大人になっていくと思うけれど、これからの子どもたちがこういう時間を持ちづらくなるとすると、それは大きな問題だと思います。

片山 令子¥ 1,260
ベアトリス・シェンク ド・レーニエ
ハンス リマー¥ 1,260

Profile

鈴木 潤(すずき じゅん)メリーゴーランド京都店 店長 三重県四日市にある「子どもの本専門店メリーゴーランド」で13年企画を担当。増田喜昭と共に1997年より作家灰谷健次郎氏を訪ねる子どもキャンプ「あそびじゅつIN沖縄」を立ち上げる。他にスウェーデン在住の作家ヨックム・ノードストリューム氏やウルフ・スタルク氏を訪ねたり、アメリカ各地にあるチルドレンズミュージアムを訪れるなど海外ツアーを多く手がける。また、ドイツ、ミュンヘン市で2年に一度開催される「ミニミュンヘン」を訪れ、四日市で子どもがつくる子どものための子どものまち「よっかいちこどものまち」の立ち上げに携わり、大人と子どもをつなぐイベントなどを仕掛ける。2007年京都店の出店にともない京都に移住。店長を務める。読み手に一番近いところで本を手渡す仕事に生きがいを感じている。2009年夏に男の子を出産。少林寺拳法二段。 〒600-8018 京都市下京区河原町通四条下ル市之町251-2 寿ビル5F Tel/Fax 075-352-5408 メリーゴーランド京都店 HP